ガンテキは、まさか、と思つた。今朝、ペニスに違和感を感じたので、パンツを脱ぎ捨て下半身を確認した。まざまざと見る、それが驚異だつたからである。ペニスのぐるりに青い薔薇が咲き乱れていたのだ。一体どうなつているのか、これは悪夢か、それとも誰かの悪戯か、そうでないとしたら恐るべき奇病である。今日は仕事は休みだつたので、半鬱状態のなか、ふらふらと原宿方面へ、歩いた。訳もなく、下半身をもじもじさせながら、とりあえず、歩いた。異常にかゆい。一時間くらい歩いたか。ふとヤン坊がギャルをナンパしているところにぶつかつた。
「すいません」
ヤン坊は肩のぶつかつたのをガンテキだとは知らない。
「こちらこそ」とガンテキは云うと、ガンテキのなかに云い知れぬ感情が湧きでてきた。
そうしてある考へが浮かんだ。「そうか、今度、博覧会があるのだ。オレはいつもあれでヤン坊に負けているのだ。今、オレのペニスには青い薔薇が咲いている。これを博覧会で見てもらおう。そうすれば投票で上位に喰いこみ、ヤン坊も驚嘆し、負けを認めるだろう」と云ふものであつた。
博覧会と云ふのは「或る館」で催される芸術競争のやうなもので、毎年6月に行われている悪趣味な大会である。ガンテキはすつかり「オレのペニスこそ、今度の博覧会の花、大目玉である。誰にも負ける気がしない」と信じきつていた。まあそれも仕方あるまい。いきなりペニスのぐるりに花が咲いたなどと云ふ話は聞いたことがない。しかしペニスに花が咲いたからと云つて下半身を露出させたまま何時間も展示物になるのはつらい。どうしようかと悩み、結果、時間制限をすることにした。ガンテキには不利にはなるけれど、来場者は必ずオレに投票するだろう、といふ自信があつたのだ。1日30分だけ下半身を完全に露出して、奇跡のペニスを見てもらおうと云ふのだ。展示期間は2週間であつた。作品には順位があり、投票制である。
しかし原因はなんだろう。やはり病気だろうか。それでは死に至る病気だろうか。性病のようにモノが機能しなくなるのか、考えただけで恐ろしい。ガンテキは薔薇に棘があるのを見つけ、それに触れた。ちいさな切り口から血が滴つた。
続く。
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